技術情報
■ラミニン511E8断片とは
ラミニン511は多能性幹細胞(ES/iPS細胞)が足場とする基底膜の主要成分です。
ラミニン511(Laminin-511、 800kDa )は、細胞外マトリックスである基底膜を構成する主要なタンパク質の一種であり、細胞表面のインテグリンα6β1と結合します。
ラミニン511は3つの鎖(α鎖、β鎖、γ鎖)から構成されている非常に大きなタンパク質(800kDa)で、容易に組換えタンパク質を作製することができません。
そこで、ラミニン511を断片化して細胞表面のインテグリンα6β1と結合する最小構成部位を調べたところ、ラミニン511E8断片(Laminin-511E8 fragment, 150kDa)という部位を同定することができたので、この部位を組換え体として製造することにしました。
■ヒトiPS細胞は、”全長のラミニン511” よりも ”ラミニン511E8 断片” に強く接着する
ラミニン511E8断片とそれ以外の細胞培養基質で細胞に接着する強度の比較を行いました。
グラフは、横軸が基質のコーティング濃度で、縦軸が波長570nmの相対吸光度(Matrigelの最高濃度を1)を示しています。
この結果より、ラミニン511E8断片が最も強く細胞に接着することが確認されました。
■ラミニン511E8断片上では単一分散したヒトES細胞が速やかに接着し、増殖する
ラミニン511E8断片とそれ以外の細胞培養基質でヒトES細胞の継代を行いました。
継代時にヒトES細胞のコロニーを単一分散させたところ、ラミニン511E8断片では速やかに細胞に接着し、増殖することが確認されました。
■ラミニン511E8断片を使用したES/iPS細胞培養時の更なる利点
従来の培養方法では、継代時にES/iPS細胞を単一になるまでバラバラにすると細胞が死んでいました。
そのため、ある程度の細胞集団を維持しながら継代を行う必要がありました。
ラミニン511E8断片を細胞培養基質に使用すると、単一なったES/iPS細胞でも維持培養が可能になりました。
⇒ 細胞培養手法を習得する為に必要な期間を短縮できます。
⇒ 細胞培養の拡大効率を飛躍的に高めることができます。
■ラミニン511E8断片を使用したES/iPS細胞培養の大量生産
従来の培養方法(コロニー継代)では、継代時に1:4の拡大効率でしたが、ラミニン511E8断片を細胞培養基質として使用することで1:100での拡大が可能となりました。
■ラミニン511E8断片を使用したES/iPS細胞培養の大量生産
ES/iPS細胞を従来の方法(コロニー法)で培養したものと、ラミニン511E8断片を細胞培養基質として使用したも
ので30日間 細胞数を比較しました。
グラフは、横軸が培養日数で縦軸が細胞数を示しています。
結果は、従来法(コロニー法)と比べて、ラミニン511E8断片を細胞培養基質として使用すると細胞数が200倍以上
増えることが確認されました。