関口教授が提唱するマトリクソーム

“マトリクソーム(matrixome)”は細胞外マトリックスを意味するmatrixと全体をあらわす接尾語omeを組み合わせた造語で、細胞外マトリックスを構成する分子(タンパク質)の総体を指す新たな概念です。

<細胞の挙動や運命を決めるマトリクソーム>

私たちの身体をつくる基本単位は細胞です。人間の身体は100兆個の細胞でできています。これらの細胞が集合して組織や器官(臓器)をつくり、正しく機能を発揮するためになくてはならないのが細胞外マトリックスです。

細胞外マトリックスは細胞の周囲に存在する繊維状あるいはシート状の構造物の総称です。以前は細胞間のすき間を埋める詰め物にすぎないと考えられていましたが、現在では細胞の挙動や運命は周囲の細胞外環境との相互作用により制御されており、細胞外マトリックスは細胞を制御する重要な細胞外環境因子の一つであると考えられています。

細胞外マトリックスは300種以上のタンパク質でつくられています。そして細胞ごとに細胞外マトリックスをつくるタンパク質の組み合わせは異なっています。私たちが自分の好みにあわせてまわりの環境を整えるように、細胞もその働きに適した細胞外マトリックスという環境を必要としています。細胞が機能を安定に維持し、増殖と分化が秩序正しく制御されるためには、細胞ごとに最適化された分子組成をもつ細胞外マトリックスが不可欠です。

関口教授らの研究チームは、マウス胎仔の様々な臓器のマトリクソームを免疫組織学的手法を用いて詳細に解析し、 得られた結果を高解像度の画像データベースとしてインターネット上で公開しています。(画像データベースのリンクはこちら。

<再生医療の成否の鍵を握るマトリクソーム>

再生医療は生体から分離した幹細胞やES細胞・iPS細胞から分化させた細胞を使って機能不全に陥った組織や臓器の働きを補完する医療です。その基本は生体外での細胞培養にあり、組織幹細胞や多能性幹細胞を安定に維持・増幅する培養技術や多能性幹細胞から目的の細胞を効率よくつくり出す分化誘導技術が再生医療の基盤となっています。

組織幹細胞やES細胞・iPS細胞のような多能性幹細胞は培養が一般に難しく、培地や培養基材の選択が培養の成否を握っています。細胞がどのような組成の細胞外マトリックスをもっているかがわかれば、細胞にとって居心地のよい培養基材を設計することが可能です。マトリクソームの解明は革新的な細胞培養技術の確立を通じて再生医療の実現に貢献します。